インタビュー
2023.03.23
化学反応を利用した新しい炭素同素体であるグラフェンの微細加工技術を開発
理工学部 教授(理工学研究科応用化学専攻) 田原 一邦
研究分野:物理有機化学、超分子化学、表面化学
大学院に進学したきっかけ、研究者を目指したきっかけを教えてください。
中学校、高校では理科、化学が物理よりも得意で、本学理工学部工業化学科に進学しました。大学では、炭素原子と炭素原子を結合させて新物質を作る有機化学がとても面白く、教室前方の席で熱心にノートをとりました。その他にも、炭素原子でできたサッカーボールの形をしたフラーレンと呼ばれる分子を知り、こんな形の分子があるのだと驚きました。この有機化学とサッカーボール分子との出会いから、深く化学を学びたいと考えました。あと、私は人見知りする性格なので、研究者・技術者が向いていると考えて大学院に進学しました。大学教員・研究者になることを決心したのは大学院に入学してからです。理学的な興味から世界最先端を目指して真剣に研究する同期や指導教員の姿勢を見て、私もこの道に入って世界に挑戦しようと決めました。
ご自身の研究テーマや研究活動について教えてください。
炭素は我々の社会生活を支える様々な場面で利用される元素です。例えば、ダイヤモンド、鉛筆の芯、脱臭剤、はたまた最先端の電子機器の部品として身近にあります。これは、炭素原子が、それら同士や他の原子との間に自在に化学結合(手をつなくイメージ)を作ることができ、そしてその化学結合のパターンにより性質が大きく変わるためです。人間がこの化学結合を自在に組み替えて加工すると、デザインした性質を持つ新物質を創りだすことがきます。なお、炭素原子の大きさは1.5×10–10 m (0.0000000001 m)で、とても小さいです。この小さな炭素原子が作る化学結合を組み替えるには、有機化学反応が使われます。最近では、この極小の世界を特殊な顕微鏡で直接観測することもできるようになりました。さらに、実際に結合を組み換えた物質を作らなくても、物質が示す性質を理論的な方法(量子化学計算や機械学習)により予測することもできます。
私たちは、炭素原子間やその他の原子との化学結合を自在に組み替えられる有機化学反応、極小の物質を観察できる顕微鏡、そして結合を組み替えた物質が持つ性質の理論的な予測の、3本の矢を携えて、新物質を世に創り出す最先端の基礎研究にチームで取り組んでいきます。
一例として、最近私たちは、ルーバンカトリック大学(ベルギー王国)と共同して、新しい炭素同素体であるグラフェンの化学反応を利用した微細加工技術を開発しました。グラフェンは、黒鉛から一層の蜂の巣状の平面網目構造を取り出した物質であり、その厚みは炭素原子の直径です。グラフェンは電導性に優れますが、電子材料へと応用するには、第一に半導体とすること、そして特定の物質への応答性を付与することが要求されています。私たちは、有機化合物を鋳型(テンプレート)として使い、他の高反応性の化学種を作用させて化学反応させて、グラフェンへ様々な周期でパターンを作ることに成功しました。なお、パターンはとても細かく、その周期は10–9 nmレベルですが、特殊な顕微鏡による直接観測により確認することができました。この微細加工技術を使うことで、特定の方向に導電する炭素材料や、狙った物質を高感度で検出するセンサの開発が将来的に期待されます。また、研究の過程では、随所に新発見があり、理学的な知見も数多く得ることができました。
この研究の例のように、新たな物質を創る独特な基礎研究をもとに、エネルギーの効率的利用や安全で安心な高度情報化社会を実現する新材料を世に造り出すことを目指しています。さらに、研究を通じて得られる理学的な新発見を大事にし、その理由を解明して知を積み重ね、学を発展させることも心がけています。自然科学という共通言語をもとに、多様な人と人の交流も大事にしながら研究活動に携わっています。
大学院を目指す人へのメッセージをお願いします。
学部ではそれぞれ様々な学びや経験をしたと思います。一方で、大学院はその延長とはせず、自主的な学びの機会(場)として自身のキャリアアップに活用してもらえればと期待します。学部とは一味違った学びがあると思います。
※掲載内容はインタビュー当時のものです。