インタビュー
2025.02.14
経営の歴史から未来を読み解く
経営学部 専任准教授(経営学研究科 経営学専攻) 宮田 憲一
研究分野:アメリカ経営史、国際経営史

大学院に進学したきっかけ、研究者を目指したきっかけを教えてください。
<「考えること」の面白さに気づいた瞬間>
大学院進学を考えたきっかけは、学部2年生のときに履修した二つの対照的な講義でした。一つは、若い先生が最新の企業事例やドラマのシーンを交えながら、企業のマネジメントをわかりやすく解説する講義。もう一つは、ベテランの先生が「企業とは?事業とは?」という本質的な問いを投げかけ、哲学的に深く考えさせる講義でした。前者は刺激的で楽しく、後者は難しく頭が痛くなるものの、理解すると世界の見え方が変わるほどのインパクトがありました。
この二つの講義をとともに、抽象的な理論と具体的な企業活動をつなぐ「経営史」の授業を履修したことが転機になりました。企業やビジネスを歴史的に深く考えることに魅了され、研究することが私にとって「楽しい」と感じるようになりました。そこから、「もっと知りたい、考えたい」という思いが強まり、研究者の道を志すようになりました。
ご自身の研究テーマや研究活動について教えてください。
<経営史からビジネスの未来を読み解く>
私は、「経営史」という企業経営に関わる歴史研究に取り組んでいます。経営史は、経済史や経営学、さらには社会学や文化研究とも交差する学際的な分野です。企業経営や取引活動に見られる「ビジネスを支える仕組み」であるビジネス・システムが、時代とともにどのように変化し、近現代社会や資本主義経済にどのような影響を与えたのか。このような問題意識のもと、「企業成長の経営史」をテーマに研究を進めています。
<企業の成長と戦略の歴史>
現在は、特に企業の事業多角化と経営構想力に注目し、アメリカの大企業や日本のクリエイティブ産業企業を研究対象としています。例えば、アメリカの総合電機企業であったGE(ゼネラル・エレクトリック)。トマス・エジソンの発明を起点に電気技術を活かして多様な事業を展開し、現在でいうAppleやGoogleのように、イノベーションを生み出しながら成長した企業です。こうした巨大企業は、どのような経営戦略で成長し、組織を変革し、社会に影響を与えてきたのか。また、政府はこうした企業をどう捉え、どのように政策を考えてきたのか。100年以上にわたる長期的な視点から、企業戦略やイノベーション・マネジメントの変遷を分析しています。
<日本のクリエイティブ産業の成長メカニズム>
一方で、共同研究として日本のクリエイティブ産業(マンガ、アニメ、ゲーム、アニソン産業)の成長についても研究しています。最近の論文では、『ポケットモンスター』という日本発のコンテンツが、ゲームからマンガ、アニメ、アニソンへと事業を多角的に展開し、世界的なグローバル・コンテンツへと成長していく過程に着目しました。ここには、日本とアメリカの異なるビジネス・システムが融合し、新たな文化イノベーションが生まれたという側面があります。こうした事例を通じて、製造業とは違った、クリエイティブ産業のマネジメントや価値創造の仕組みを明らかにしようとしています。
<経営史研究がもたらす視点、未来を創る学問としての経営史>
こうした研究を通じて、私は二つの重要な視点に注目しています。一つは、企業やマネジメントの変化のメカニズムを深く理解すること。もう一つは、「ビジネスの歴史性」という視点を取り入れることです。企業やビジネスの変化や進化のプロセスをみていくと、「経路依存性(path dependence)」と「経路革新性(path breaking)」という二つの要素が見えてきます。すなわち、過去の選択が現在のビジネスに大きな影響を与える一方で、過去や歴史を乗り越えてより良く変えていこうとする人々の主体性から、新たな発想や行動によって未来が切り開かれて新しい歴史が作られていく、歴史性がみられます。長寿の企業であればあるほど積み重なった歴史があり、企業や経営者は歴史的存在となっていくと考えられます。だからこそ、歴史性を理解していくことが、次世代の企業やマネジメントに新たな知見を見出していけるのではないか、そして経営史研究は、過去を振り返るだけでなく、未来の企業経営や社会のあり方を考える上でも大きな示唆を与えてくれると考えながら、研究に取り組んでいます。
大学院を目指す人へのメッセージをお願いします。
<大学院を目指す皆さんへ>
大学院での研究は、単に知識を得たり議論を深めたりするだけではなく、自らの思考をより高い次元へと押し上げてくれます。深く考えることで、「当たり前」に見えていたものが新しい視点から輝き、世界の見え方が変わると思います。大学院は、そうした知的探究を思う存分追求できる貴重な場です。AIの発展が目覚ましい時代だからこそ、人間にはより深い思考力が求められています。研究者を目指すかどうかに関わらず、「もっと知りたい、考えたい」というパッションを持つ方は、ぜひ大学院の扉を叩いてみてください。きっと、新しい世界が広がるはずです。

※掲載内容はインタビュー当時のものです。
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