インタビュー
2023.03.23
企業で働く人の主体的、自律的なキャリア形成を支える組織や社会の仕組みについて研究
政治経済学部 准教授(政治経済学研究科 政治学専攻) 荒木 淳子
研究分野:産業組織心理学、人的資源管理論
大学院に進学したきっかけ、研究者を目指したきっかけを教えてください。
企業で人事コンサルティングの仕事をしながら、もう少し自分の専門性を高めたいと思ったことがきっかけです。もともと就職前から産業社会学や企業の人的資源管理について学んでいたのですが、実際に働いてみると、当然ながら教科書通りにはいかない課題も出てきて、その中でもう一度学びたいと思うようになりました。
大学院に通い始めたころは、研究者を目指そうとは思っていなかったのですが、修士論文を書いているうちにもう少し研究を続けたいと思うようになり、そのまま研究の道に入りました。
ご自身の研究テーマや研究活動について教えてください。
企業で働く人の主体的、自律的なキャリア形成を支える組織や社会の仕組みについて研究しています。キャリアを主体的、自律的に形成しているという実感のある個人は、仕事のパフォーマンスやキャリアに対する満足度も高いという調査結果や研究もあります。主体的、自律的に働きキャリア形成をしていくことは、企業と個人双方にとって望ましいことだと言えます。
しかし、企業が、従業員一人一人の主体性や自律性を尊重しながら、組織としてパフォーマンスを挙げていくというのは実際にはとても難しい課題です。また個人にとってみても、自律的なキャリアと言われてもどうキャリア形成をしていけば良いのか悩む方も多いのではないでしょうか。キャリアは個人だけで作れるものではなく、働く職場や組織など環境との関わりが重要になります。主体的、自律的なキャリア形成といっても自己責任にするのではなく、個人と組織が互いにコミュニケーションを取りながら、ともにキャリア開発をしていくことが望まれます。
博士論文では、職場が個人のキャリア自律をどう支えるかについて研究を行いました。まだ新卒一括採用の多い日本企業では、最初の会社、職場での仕事がキャリアの基盤となることも多いはずです。そこでまず、職場で新入社員を巻き込み、学べる環境を整えること、たとえば、上司の働きかけや先輩社員、同僚社員との交流ができる環境を整えることが重要です。リモートワークが導入され、オンラインでのコミュニケーションには難しさもありますが、職場を実践共同体(communities of practice)のような場にしていくことが、キャリア自律の第一歩だと思います。
さらに、企業が職場を越えて学ぶ社員を支援することも重要です。もちろん仕事で成果を出すことは重要ですが、職場で学べる知識やスキルには限界がありますし仕事だけでは視野が狭まります。日本は諸外国と比較しても自己学習を行う社員の割合が低いと言われていますが、社員が職場以外の勉強会や研究会、また大学院のような場で学ぶことを企業が積極的に支援していくことも必要ではないでしょうか。そのためには職場で働き方を効率化し社外で学びやすい雰囲気を作ることも大切ですし、職場の上司が、例えば部下が社外で学んできた知識や情報を職場で共有する、社内で活かせる方法を検討するといった「ゲートキーパー」としての役割を果たすことができれば、社員の意欲も高まり、社外の新しい知識や情報が社内に還流するきっかけにもなると思います。社外で学ぶことは社員の離職を促進するのでは、という懸念もあるかもしれません。もちろん離職もゼロではないでしょうが、それよりも社外で新しい知識や情報に触れ、多様な人と交流することは、視野を広げ、改めて自分の仕事の意義を考え仕事やキャリア形成に対する意欲を高めるといったプラスの効果も大きいと思います。
今年、リモートワークを活用して働く正社員に行ったWEBアンケート調査では、自分の会社は社員の能力開発を支援していると感じている人ほど、主体的、自律的なキャリア形成への意欲も高く、リモートワークの環境を活用して積極的に学んでいました。能力開発支援の中身には、継続的な能力開発やプログラムの充実だけでなく、個人のスキルや能力に合わせて仕事がデザインされていることや、チーム業績への貢献も評価されるといった適切な業績評価も含まれます。企業が研修だけでなく、仕事や業績評価を通じて社員の能力開発を支援しようとすることが、社員の主体的、自律的なキャリア形成への意識を高め、学習を促進するのだと思います。
今後は、組織と個人双方にとって望ましいキャリア形成の在り方についてさらに研究を進めていきたいと思います。
大学院を目指す人へのメッセージをお願いします。
大学院は自分の興味・関心のあるテーマについて、誰もが自由に発言し議論することのできる場です。教員や仲間の院生、本や論文など、様々な人との対話を通じて、自分の視野を広げ、考えを深めていって下さい。
※掲載内容はインタビュー当時のものです。